はじめに
TikTokは、短尺動画の共有プラットフォームとして世界中で急速に普及しました。特に若年層を中心に人気を博し、日常生活の一部となっています。しかし、その背後にあるアルゴリズムの仕組みや影響については、十分に理解されていない部分も多く、様々なリスクが指摘されています。本記事では、TikTokのアルゴリズムがもたらす危険性について、国内外の事例や研究を基に詳しく解説します。
1.TikTokのアルゴリズムの仕組みと特徴
TikTokの「For You」フィードは、ユーザーの視聴履歴や操作履歴を基に、個々の興味関心に合わせた動画を自動的に推薦する仕組みです。このアルゴリズムは、ユーザーのエンゲージメントを最大化することを目的としており、以下のような特徴があります。
・パーソナライズの精度:視聴時間、いいね、共有、コメントなどから細かくユーザーの傾向を分析し、最も関心を引きやすい動画を推薦します。
・エンゲージメントの強化:感情を揺さぶるコンテンツ(刺激的、感動的、ショッキングなど)が優先される傾向があります。
・フィードバックループの形成:視聴した動画に似たコンテンツが次々と表示され、ユーザーは同じような情報に囲まれる状態になります。
このアルゴリズムの特徴は便利である一方、後述するようにユーザーの思考や行動に偏りや過度な依存を生み出す危険性も孕んでいます。
2.フィルターバブルとエコーチェンバーの形成
TikTokは極めて個人化されたコンテンツ体験を提供しますが、その反面、情報の多様性が損なわれる「フィルターバブル」や、偏った意見が強化される「エコーチェンバー」の形成が問題視されています。
たとえば、アメリカの調査機関Pew Research Centerの報告では、政治的に極端な立場を取る若者の多くが、自分と同じ意見のコンテンツばかりを見ていたというデータがあります。TikTokでは、政治、ジェンダー、人種といったセンシティブな話題が、アルゴリズムによって片方の視点だけが強調されがちです。
また、欧州委員会は2023年にTikTokを含む複数のSNSに対し、アルゴリズムによってユーザーが誤情報にさらされるリスクを放置しているとして、デジタルサービス法(DSA)の観点から是正を求めました。
※フィルターバブル:インターネット上でユーザーが興味・関心のある情報ばかりがアルゴリズムによって優先的に表示され、反対意見や多様な視点に触れる機会が減ってしまう現象
※エコーチェンバー:自分と同じ意見や価値観を持つ人々の間で情報が繰り返し共有・強化される状態
3. 若年層への影響と中毒性
TikTokの中毒性は、ゲームやギャンブルに似た「ドーパミンループ」によって説明されることが多く、特に若年層に深刻な影響を与えています。
•UOC(カタルーニャ公開大学)の研究では、10代のTikTokユーザーのうち、20%以上が1日2時間以上利用し、注意力の低下、不眠、自己肯定感の低下といった問題を抱えていると報告されています。
•アメリカの非営利団体Common Sense Mediaは、「TikTokはYouTubeやInstagramと比べて、短時間で強烈な刺激を与えるため、より強い依存性がある」と警告しています。
•カナダの教育機関では、TikTok依存による学力低下や社会性の欠如が深刻化しており、一部の学校では校内でのTikTok使用を全面禁止する措置を取るところも出ています。
4. 誤情報と健康への影響
TikTokはエンタメとしてだけでなく、自己表現や「ライフハック」的な動画も人気ですが、その中には健康や医療に関する誤情報が多く含まれています。
•シカゴ大学の調査では、TikTok上に投稿された医療系動画の47%が不正確であり、中には危険な「自然療法」や誤った病気の説明が含まれていました。
•ハーバード大学医学部の研究では、ADHDに関する動画の多くが、科学的根拠に乏しいまま「自己診断」を助長しており、医療機関への相談を避けさせる結果につながっていると警告しています。
•英国NHS(国民保健サービス)では、「TikTok医療」による自己判断が医療機関の負担を増やしているとし、SNSで得た情報を鵜呑みにしないよう啓発活動を強化しています。
5. 危険なチャレンジと模倣行動
TikTokの拡散力と模倣性の高さから、過激な「チャレンジ動画」が世界中で問題になっています。
•アメリカでは「Benadrylチャレンジ」と呼ばれる過剰摂取の動画が拡散され、13歳の少年が死亡。FDA(食品医薬品局)は公式に警告を出しました。
•オーストラリアでは「ブラックアウトチャレンジ」によって小学生が窒息し、意識を失う事故が相次ぎ、州政府がTikTokとの対話を強化するに至りました。
•日本でも類似のチャレンジ動画が拡散された結果、模倣による軽犯罪やトラブルが報告されています。
こうした事例は、アルゴリズムがセンセーショナルな動画を優先して拡散する構造により、一部の危険な行為が「ゲーム感覚」で広まってしまうリスクを浮き彫りにしています。
6. データプライバシーと国家安全保障の懸念
TikTokは中国のバイトダンス社が運営しており、ユーザーデータの取扱いをめぐって国際的な議論が続いています。
・EUでは2023年、TikTokに対し個人情報の不適切な取り扱いにより約5億3000万ユーロの制裁金が科されました。特に未成年のデータ収集と表示設定の不透明さが問題視されました。
・アメリカでは2024年、連邦政府関係者のTikTok使用が全面禁止され、中国政府によるデータアクセスの可能性を理由に規制が強化されました。
・カナダ、インド、オーストラリアでも公的機関の端末からTikTokアプリを削除する動きが進んでおり、「国家安全保障」の観点からTikTokを疑問視する声が世界的に高まっています。
7. 親子間のギャップと教育的対応
TikTokに限らず、SNS全体に対して親世代と子ども世代の認識ギャップが広がっています。親が危険を理解していない、あるいは制限の仕方を知らないケースも少なくありません。
・英国の教育機関は、親向けにTikTokの使い方やリスクを紹介する「SNSリテラシー講座」を設け、家庭での対話の促進を図っています。
・アメリカでは、一部の州で学校カリキュラムに「デジタル市民教育」を導入。TikTokなどSNSのリスクを生徒自身に理解させ、健全な利用を促す取り組みが始まっています。
TikTokのようなSNSは、完全に排除すべき存在ではありませんが、使い方と付き合い方を考える教育的なアプローチが必要です。
おわりに
TikTokはエンタメ性や創造性を広げるツールとして多くの人々に影響を与えていますが、そのアルゴリズムの性質にはリスクも伴います。特に若年層においては、中毒性や誤情報、危険な模倣行為など、深刻な影響が報告されています。今後は、ユーザー自身がメディアリテラシーを高めるとともに、プラットフォームや政府による対策、そして教育現場での取り組みが一体となって、安全なデジタル社会の実現を目指す必要があります。
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